2012年5月28日月曜日

ただひたすら最善手 - 極北 (マーセル・セロー (著), 村上 春樹 (翻訳) )



小説のレビューというのは難しいです。
ネタバレしないように紹介しようとすると、面白さをなかなか伝えられないからです。

ということで今回は試みとして、ネタばれ回避のため、今回は全体の流れに触れないよう、2か所だけ引用してご紹介してみます。


では1つ目。
私は自分のどうしようもない愚鈍さを天に呪った。私をこれほど愚かな人間に育てた母を鈍い、<中略>次々に多くのものを呪った。しかし言うまでもないことだが、誰かを呪って、それで銃が戻る訳ではない。<中略>銃なしでは死んだも同然だ。

考えても仕方ないことが次々に頭の中を駆け巡ることはよくありますよね。
この主人公は、極北の地に住んでおり、わずかな油断が命取りになります。そのわずかな油断をした自分を呪った訳ですが、すぐに現実的な思考を取り戻し行動に移します。
命の綱が切れかかった状況でも、ベストなアクションを起こすべく即切り替える。
この根性(?)はぜひ見習いたいと思いました。



2つ目。

全てが早い者勝ちになった。平和な時代にあっては、堅固で我慢強いものが栄える。しかし無法状態にあっては、素早く無慈悲なものが先手を取る。
このセンテンスは、この主人公が生きている環境について説明したものです。
まず、自分が置かれている世界のルールを見抜くってのは重要ですね。それでこそ合理的な判断が出来るというものです。

今の日本は、我慢強い人が栄える世界、素早く無慈悲な人が先手を取る世界が混在しているのではなかろうか、と思いました。
ソーシャルネットワークワールドなんかでは、素早く無慈悲な人よりも、むしろ我慢強く支え合うタイプの人がうまくいっているように見えます。というか、会社の中、友達との間など、ローカルな社会では大体そうかもしれないです。
一方社会全体は、まさに早い者勝ちのグローバル競争にさらされているようにも見えます。
ルールが複雑に絡み合っている現代社会、自分なりの判断基準を決めるのは容易ではないのかなと思いました。



さて、以上引用2つでした。
これらの引用からもわかるように、この小説は結構極限の世界を舞台にしています。
しかし、その中で主人公が冷静に物事を判断して、アクションしていく(時に自暴自棄になるけど)様子が見ごたえがあります。
どんな状況でも最善手を狙わないといけないなと思いました。
甘い自分を戒めてくれる一冊でした。




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